よい子のやめ方〜高校教員をやめるまでの道のり〜

よい子の人生を送ってきたけれど、ふとこのままでいいのか悩んだあなたへ。一緒によい子をやめる練習しませんか?

稽留流産④ 手術の日

絶飲食と言われていたので、

 

前日の夜から何も食べられないし飲めない。

 

まだ微妙につわりが残っていたため、

 

朝になにか食べないと気持ちが悪い。

 

早歩きすると吐き気がするので、

 

駅までゆっくり歩いた。

 

この日、少し悩んだけど

 

かばんにマタニティマークをつけていった。

 

ぎりぎり最後まで妊婦でいたかったし、

 

赤ちゃんがいる感覚を忘れたくなかったから。

 

 

家を出てから、病院の診察に入るまで

 

ずっと夫と手をつないでいた。

 

すれ違う人たちは私をチラチラ見たけど、

 

なんとも思わなかった。 

 

手術と全然関係のない話ばかりしていた。

 

 

 

 

 

手術の流れは、

 

①子宮口を広げるための処置

②三時間くらい子宮口が広がるまで待機 

 その間に着替え、点滴

③手術 

④麻酔が切れるまでベッドで休む

 

という感じ。

 

日帰り手術ですむとはいえ、

 

緊張や痛みや自分の気持ちの整理とか、

 

初めてのことばかりで既に疲れ気味だ。

 

しかも、昨日お医者さんに

 

全身麻酔の場合、

 

痛みがある人、手術を覚えている人が

 

3人に1人くらいの割合でいます。」

 

と説明されたことも、気疲れの原因だ。

 

手術のこと、覚えているなんて。。。

 

しかも痛みもあるかも、なんて。。。

 

地獄みたいだな。。。

 

しかも3人に1人って多くない?

 

 

 

そんなこと、ぐるぐる考えてると

 

受け付け番号のコールがなる。

 

診察室に夫と入り、またエコーを見る。

 

お医者さんと、赤ちゃんの心臓が動いていないことを確認する。

 

このときはもう泣かなかった。

 

その後に子宮口を広げるための処置をする。

 

スポンジをいれるんだけど

 

ネットでは「スポンジ入れるのが痛い」と書かれていて、

 

びびりながら処置を待つ。

 

 

お医者さんは、

 

「消毒するねー」と言って

 

ものすごく奥まで器具を入れてきて、

 

それがなかなか痛かった。

 

生理痛を狭い範囲にひとまとめして、

 

ピンポイントにぶつけられたような。

 

「うーうー」とうめいていると、

 

看護師さんたちがなぐさめてくれた。

 

結局、スポンジをいれた痛みなのか、

 

消毒の器具の痛みなのかもわからず、

 

「タンポン入れるねー」と言われて

 

診察は終わり。

 

 

もうそこで私はぐったり疲れてしまい、

 

手術だの点滴だの、

 

よくわからない初めてのことや 

 

これから待ち受けるなんやかんやが

 

急に怖くなってきた。

 

つわりがきつくなってくる。

 

 

 

診察室から出て、看護師さんが車イスで

 

手術までの待合室に連れていってくれる。

 

待合室は2つあって、

 

家族付き添いで待てる家族用と

 

手術室前にある、患者しか入れない患者用に

 

分かれている。

 

 

ギリギリまで夫と一緒にいたくて、

 

家族用の待合室に行きたいと看護師さんに伝える。

 

看護師さんはうなずいて、

 

「まずは着替えましょう。

 

手術室前のロッカーで着替えたら、

 

そのあと、家族用の待合室にいきましょう。」

 

と車イスを押してくれた。

 

 

 

広い廊下を抜け、一般の患者の入れない場所にくる。

 

怖くてどきどきしてくる。

 

エレベーターに、手術のストレッチャーが見える。

 

ゆれる点滴台のチューブを見ていると、  

 

だんだん手術が近づくことが怖くなってきて、

 

急に吐き気がしてきた。

 

「すみません、気持ち悪い。。。」

 

と言ってすぐ、車イスで運ばれている最中に、吐いてしまった。

 

ビニール袋をもらい、ものすごいえずき方をしてしまう。

 

何も食べてないものだから、 

 

吐けるものがなくて、えずきが止まらない。

 

変な蛍光塗料みたいな黄色い液体が出てきた。

 

体をうねらせて吐いてる私を見て、

 

看護師さんが急遽手術室前の患者用待合室に

 

私をつれていき、ベッドに寝かせた。

 

気持ち悪い、でも怖い、1人でいるのが怖い。

 

待合室のカーテンめくったら、

 

すぐ目の前に手術室前がある。怖い。

 

 

 

看護師さんは、私の戻したものの片付けをしながら、

 

「気持ち悪いよね?

 

旦那さんにもこの部屋で待ってもらうわ。」

 

と言って、本当は患者しか入れないところに

 

夫を通してくれた。

 

 

夫が来てくれてホッとする。

 

そこから、手術が始まる前までずっと夫と手をつないでいた。

 

夫が、新婚旅行は海鮮丼が食べられるところがいいと言っていたので、

 

二人で北海道のガイドブックを見ながら食べ物の話ばかりしていた。

 

私は手術も怖いし赤ちゃんのことも考えるのが怖くて

 

ソフトクリームとか、イクラ丼とかの写真で

 

おおげさに喜んだりしてみせた。

 

ときどき、近くの部屋から赤ちゃんの泣き声がする。

 

帝王切開とか、分娩も手術室と同じフロアらしい。

 

看護師さんは

 

「赤ちゃんの声、嫌だったら、場所変われますよ。」

 

と聞いてくれた。

 

私は、赤ちゃんの声は嫌じゃなかった。

 

私の赤ちゃんは、

 

私のお腹に帰ってきてくれたらまた会える。

 

お腹にきてくれなくても、私が死んだら会える。  

 

今泣いてる赤ちゃんも、

 

流産の恐れやら不妊治療やら、

 

それぞれの何かを乗り越えて

 

一生懸命誰かがお腹で育ててきたのだから

 

無事産まれてよかったなあと思う。

 

 

 

看護師さんが

 

「あと10分ほどで始まります。

 

ご主人は外でお待ちください。」

 

と呼びに来たので、夫と別々になる。

 

1人、ベッドに寝転びながら

 

もう赤ちゃんと一緒にいられるのは最後なんだと思うと

 

やっぱりまた泣いてしまった。

 

お腹をなでて、一生懸命話しかける。 

 

また帰ってきてね。  

 

また私を見つけに来てね。

 

会えるの楽しみにしているよ。  

 

ばいばい。

 

 

 

手術室に入ると、

 

ドラマで見たまんまの丸い大きな照明、

 

青い服のお医者さんと看護師さん、

 

ステンレスの器具やいろんな機械、手術台。 

 

このあたりでもうずいぶん緊張してしまった。  

 

お医者さんが、

 

「手術ギリギリまで麻酔は入れないから」

 

という。

 

まさか麻酔がきく前に痛いことされるんじゃ。。。と疑ってしまう。

 

ごめんね、お医者さん。

 

私は赤ちゃんと離ればなれになる悲しさや

 

初めての手術への恐怖で頭がいっぱいなのに、  

 

そこにいるスタッフの人たちは

 

慣れた手つきでエコーを見たり、

 

機械を操作したり、

 

日常の一部のように動いていて、

 

私1人だけこの空間でおどおどしていて

 

それがまたさみしかった。

 

 

 

いつもの検診のような足の開く椅子にのせられ、

 

腕も両足も固定される。

 

 

 

ああ、最後にお腹をなでて、

 

挨拶すればよかったなあ。

 

でも、さっきしたから大丈夫かな。  

 

聞こえてたかな。

 

 

 

そう思うとやっぱり涙がこぼれてきて、

 

それに気づいたのか気づいてないのか

 

マスクをつけた若い女性の看護師さんが

 

手を握りながら麻酔の説明をしてくれた。 

 

「体は苦しくないですか?

 

最初にボーッとするお薬が点滴から入ります。

 

その後に麻酔が入りますからね。」

 

ちょっとだけ気持ちが楽になる。

 

 

 

「今からボーッとするお薬入ります。」

 

視界がぼんやりしてきて、

 

手術室の天井が近くなったように見える。

 

でもまだ全然眠たくない。

 

「今から麻酔が4cc入ります。

 

1、2、3、4、入りました。」

 

それを聞いても、全然まだ眠くない。

 

ホントに眠れるのかな?

 

と、まばたきをした瞬間、記憶がストンと途切れた。

 

本当に、急にブチッとちぎられるみたいに

 

「眠い」とか「視界が歪む」とか

 

なんの前兆もなかった。

 

 

 

 

「終わりましたよ~。」

 

先生の声がする。

 

「手術のこと覚えていますか?」

 

覚えてない、何にも。

 

でも全然しゃべれなくて、首を横にぐらぐら動かして

 

「いいえ」の返事をした。

 

ドラマでやってるのと全く同じように

 

看護師さんたちが手術台からストレッチャーに

 

「1、2、3!!」の掛け声で私を移動させた。

 

うわードラマと一緒なんだなー

 

ドラマってやっぱり、取材してるんだなー

 

と思ったりして、体は動かせないけど

 

頭の動きは割りとはっきりした。

 

 

 

最初の患者専用の待合室に戻る。

 

「旦那さん、来ますからね~」と言われ、

 

夫が横に来てくれる。

 

目も開けられないし、体も動かない。

 

でも、夫の名前を何度も呼んでいると、

 

「ちゃんといるよ。」と手を握ってくれた。

 

 

 

 

そのあと、三時間くらいだらだら寝たり話したりして

 

時々吐いて、四時ごろタクシーで家に帰った。

 

頭がぐらぐらして、椅子に座るのもやっとだった。

 

麻酔で気持ち悪くて

 

この日は帰宅してからずっとずっと眠っていた。

 

隣の布団で夫も一緒に昼寝していた。

 

時々目が覚めると横に寝ている夫が見えて、

 

こういうときに1人出掛けたり、

 

リビングにいってしまうのではなく、

 

一緒に昼寝してくれていたのが嬉しかった。

 

日帰り手術だったけど、

 

ものすごい体力を消耗したように思う。

 

 

 

夜中に目が覚めると、

 

夫は隣でケータイでゲームをしていた。

 

 

私も突然吐いたり泣き出したりしたし、

 

手術の付き添いはとても大変だったみたいで

 

夫は夫でずいぶん疲れていた。

 

 

 

麻酔のことや、手術のこと、

 

初めて見たことや病院のおもしろかったことなんかを

 

二人で話していた。

 

ふと、ああ、もうお腹にいないのかと思うと

 

何とも言えない気持ちになった。

 

「赤ちゃんいなくなっちゃった」と泣くと、

 

いつものように抱きしめてくれて、

 

「また帰ってくるよ」と言ってくれた。

 

 

 

 

 

そして次の日の朝起きると、

 

嘘みたいにつわりがなくなった。

 

スッキリした朝を迎えるのは久しぶりで

 

とても気持ちよかったけれど、

 

とてもさみしかった。